オンキヨー世界点字作文コンクール ONKYO WORLD BRALLE ESSAY CONTEST

国内部門 学生の部 特別賞 「輝ける人」
山梨県  山宮 叶子(15歳・女性)

 「努力している人」はとても素敵だ。きらきら輝いている。私の憧れだ。「努力している人」は皆目標を持っている。私も少しでもそうなりたくて、よく目標を立てる。テストでは「点数を維持する」、陸上大会では「自己ベストより悪くない記録にする」という目標を。達成するのは簡単で、満足感も感じられる。努力って、なんて簡単なのだろう。

 中学二年の十月、サウンドテーブルテニスの大会に出場した。一年の時は、一回戦で負けた。少しの点差だった。だから今回は「一回戦で勝つこと」を目標にした。優勝したいなんて考えなかった。練習は本気でしたつもりだ。試合の結果、ミスを繰り返し一回戦で負けた。「努力したのになんで?」そんな疑問が心に広がる。勝ちたかった。閉会式で優勝者に賞状が渡されて、「優勝したかった」と思った。そんなこと考えていなかったはずなのになぜだろう。答えは簡単だ。考えていないなんて嘘だ。本当は考えていたのに、見ないふりをして心の隅に押し込んでいた。優勝なんて高い目標に向き合えなかった。そんな高い目標を立てて、一回戦で負けたら傷が深くなる。目標が高いほど、失敗した時は悔しくて辛い。けれど、あの時「優勝」という目標に向き合っていたら、もっと真剣に練習できたのかもしれない。今までの私は、自分が簡単に達成できそうな目標を立て、満足感を感じていた。心は冷めたお湯のようにぬるく、甘い夢ばかりを見ていた。そんなの努力ではない。努力とは、心が燃えるように熱くなるもののはずだ。私は、高い目標から逃げないと決めた。

 3週間後の「山梨県中学校英語暗唱大会甲府支部大会」には、もちろん「優勝」という目標を立てて臨むことにした。先生に「英語の発音が綺麗」と言われることもあったので、少し自信があった。でも、練習はとても大変だった。点字で2枚半ある課題文はなかなか覚えられず、日本語にはない英語特有のthやv、fなどの発音もうまくできない。感情を込めるために、悲しい時は声を低くし、嬉しい時は声を弾ませ、重要な部分は力強く言う練習もした。普段日本語では自然に声で感情を表せるのに、慣れない英語では難しかった。毎日練習するうちにだんだん課題文を覚えてきて、スムーズに発音ができるようになった。感情も込められるようになってきた。少しずつ上達していった。とても楽しかった。

 甲府支部大会の当日、自分の順番になるまで他の人の発表を聞いた。一人ひとり感情の込め方が違って、とても勉強になった。皆私よりずっと発音が綺麗で、本当の外国の人みたいで、不安と緊張でいっぱいになった。順番になり、前に出た。会場の静けさで体が固まる。発表を始めた。一言目を話し始めてからはあっという間に感じた。Thank you for listening. その一言で発表を終えた。

 結果が発表される。私は三位になり、県大会への出場が決まった。嬉しかった。家族にも褒められた。でも、それ以上に悔しかった。一位になりたかった。

 私は、県大会での優勝を目指して、また練習を始めた。先生に教えていただくほかに、通学中や休み時間、家でも一人で練習した。練習を続けていると、上達しているのかどうか分からなくなった。自分の暗唱に何が足りないのか、さっきの暗唱と何が変わったのか、発音が合っているのかどうか、判断ができなくなった。それでも優勝のために、自分の暗唱を録音して聞くことを、何度も繰り返した。

 県大会当日、甲府支部大会の時より緊張した。自分の番になった。手が冷たくなり、唇が震える。心臓の音が耳の奥で響く。大きく息を吸って発表を始めた。緊張のせいで、発表中の記憶はあまりない。一つ覚えているのは、かなり早口になってしまったことだ。

 結果が発表された。あんなに努力をしたのに、入賞はできなかった。賞状が欲しかった。緊張に負けた自分が悔しい。努力が足りなかったのだろうか。一回でも多く練習していたら何か変わったのだろうかと後悔した。

 今までの私なら、大会が終わると急にやる気をなくしていた。でも、今は違う。大会が終わっても、英語への熱は冷めなかった。大会で三年生が発表していた英文を調べて単語を覚えたり、発音の練習をしたりした。心の奥から、どんどんやる気があふれてくる。

 努力は結果が重要だ。でも、それと同じくらい、何を得られたか、どう変われたのかも重要だと思う。「努力している人」になるには、高い目標に向き合う勇気、失敗を受け止める強さ、自分を変えたり努力を楽しんだりする前向きさが必要だ。私は光の欠片を手に入れた。今はまだ頼りない光だけれど、もっとたくさんの欠片を探して、集めて、磨いて、いつか眩しいくらいに輝かせてみせる。