オンキヨー世界点字作文コンクール ONKYO WORLD BRALLE ESSAY CONTEST


シニア・グループ 優秀賞 西アジア・中央アジア・中東地域
「貧困と幸福」
アフガニスタン サナ・サヒル(27歳・女性)
人がニーズを満たすだけの十分な経済力を奪われた経済的状態または状況を貧困といいます。一方、幸福とは人が自分は満足している、満たされていると感じる精神的状態または感覚です。この定義から、貧困も幸福もどちらも状態を指しますが、1つは経済的状態で、もう1つは精神的状態であることがわかります。貧困と幸福という言葉は相反するものと多くの人は思っています。つまり、貧困は、必然的に人間の精神状態にマイナスの影響を及ぼし、喜びを悲しみや苦悩に変えるという考え方です。私は、貧しい発展途上国に住む視覚障害者として、部分的にはその考え方に同意しますが、貧困と幸福の相互関係を少し掘り下げて、根本から考えてみようと思います。
多くの観点で、富と幸福には、ある関係性がはっきりと見えます。富を持っている人は、人生に幸せをもたらすのに必要な手段を、すべて持っています。富の助けを借りると、経済的自由が得られ、欲求や要求も一層満たされ、質の高いものやサービスを使用することができ、最新の教育を受け、最先端技術を利用することが保証され、人々から尊敬され、最高の医療が受けられます。世界各地を旅行し探索するのは最高に楽しいことですが、それも十分な富や経済力がなければ実現できません。知らない人に出会って親しくなり、異なる文化や生活スタイルについて知ることも大いなる喜びでしょう。
さらに、富は発展途上国に住む視覚障害者の幸福には、なくてはならない手段です。発展途上国においては、視覚障害者の経済、教育、社会的な障害や自立への障壁は計り知れず、それを克服するためのリソースは、限られているからです。基本的人権さえも保証されていません。自分の家族からも、住んでいる地域や自治体からも、重荷とみなされています。家に閉じ込められ、教育を受けることも、友人をつくることも、まして結婚をすることもできません。全盲の障害者には年間6万アフガニが支給されます(弱視の障害者には無支給)が、銀行から引き出したとたんに、家族がお金を奪うという悲しい現実があります。したがって、特に発展途上国に住む視覚障害者にとっては、富は楽しみを手にするために必要な手段です。富を介して自立し、家族や周囲から尊敬され、さらに自分の人生、パートナー、家族、教育などについて、自分で自由に決めることができます。
一方、幸福は人間の心のあり方に完全に依存した内的感情です。心のあり方は、価値、状態、手段、優先順位など、ある一定に基準に基づきます。その基準は人によってさまざまで、十分なお金や高級車、大きくて立派な家、順調な仕事があると嬉しいと感じる人もいれば、一切お金がなくても幸せだという人もいます。試合に勝った、試験に合格した、お気に入りの映画やTV番組を見た、家族や友人と深いつながりがある、健康である。そういうことで、お金の有無にかかわらず人は幸せを感じます。
貧しくてつつましくても良いことはあります。中でも、恐れや不安や緊張がなく、鬱になることもなく、安全で安心できるというのは重要です。お金がなければ、世界を旅していても命を狙われる心配はありませんが、お金持ちの人は、たとえ自分の国であっても長距離移動をするときには、慎重に計画しなければなりません。殺人犯や誘拐犯に狙われるかもしれないという恐れを感じることがあるでしょう。過剰労働、厳しいスケジュール、複雑な状況、悪夢に緊張。こうしたことから、人は鬱や妄想に陥ることもあります。アフガニスタンのような発展途上国では、殺人、爆発、攻撃、脅迫、誘拐などが蔓延していて、不安で安全が保証されていないことが大きな問題であるため、ますますひどい状況です。貧困でもう1つ良いことは、人間関係です。貧しい人ほど家族や友人と過ごす時間が長いからです。以上のことから、貧困は幸福の源泉になりうると言えます。
視覚障害者には経済的な障壁をはじめ多くの障害を抱えていますが、それでも楽しく幸せな生活を送ることができます。視覚障害者の幸福で最も重要なことは、現実を受け入れ、現実とともに穏やかに生きていくことです。つまり、視覚障害と貧困を受け入れるということです。視覚障害者の幸福には社会のサポートが必要だということが、研究の結果わかっています。例えば、いつも多くの家族や友人に囲まれている人は幸福を感じる割合が高いのです。家族、友人、地域からのサポートがあればあるほど、視覚障害者は幸せになれます。また、スポーツや娯楽も、視覚障害者の喜びにつながります。適切な運動をすれば、より健康でより幸福な生活を送る確率が高くなると言われています。これで、視覚障害者で貧しくても、幸せになることができることが、おわかりいただけたでしょうか。
最後に、お金持ちも貧しい人も、視覚障害者も晴眼者も、男性も女性も、黒人も白人も、すべての人にとって、幸せは大切なことです。そのためには、まず現実を受け入れることから始めましょう。お金の有無で幸せかどうかが決まる、という考え方は必ずしも真実ではありません。ただ、発展途上国ではそういう場合もあります。でも、私が言いたいのは、貧困が悲しみを生み出すのではない、お金があることだけが幸福を生み出すのではない、ということです。視覚障害者を含む世界の多くの人にとって、お金があるから幸せということは、決してありません。