オンキヨー世界点字作文コンクール ONKYO WORLD BRALLE ESSAY CONTEST

ジュニア・グループ ヨーロッパ地域 佳作 「点字はいまも必要か。」
スイス  アンドレアス・ルディスリ(18歳・男性)

 点字は1825年にフランス人ルイ・ブライユによって考案されましたが、1850年になって、ようやくフランスの学校で公式に採用されるようになりました。1879年にドイツで採用された後、他のヨーロッパの国々でも使用されるようになりました。

 その後、電子点字ディスプレイ、録音機器、その他多くの補助機器が登場し、状況は大きく変わりました。なかでも最新のコンピュータ音声合成機能はすばらしく、これで視覚障害者は文章を読むかわりに、音声で聞くことが可能になりました。

 私達の世代にとっては、文章を音で聞くことは当たり前ですが、点字だけを使用して教育を受けてきた上の世代には、まだ馴染みがありません。教える立場の先生がこの世代であることが多く、点字に重点を置くため、文章を音で聞きたい生徒達との間で対立が起こってしまうこともあります。

 そこで思い出すのは、私が中学生だった時のことです。英語の授業で、一冊の本を順番に音読していました。私の番になった時、先生は私が実際に目で見て読む(それはスクリーンから2㎝の距離で視覚障害者用眼鏡を使って見ない限り無理な話)のか、それとも、文章を音声で聞いて、それを復唱する(ほぼずっと点字ディスプレイに両手を置いているので、これも無理)のか、どちらにするのだろうと考えたのだと思います。すると先生は、私にパソコンのない机の方へ移動するようにと言いました。これはまずいことになったな、と思いました。文章を自分の点字ディスプレイに送るのは、かなり時間がかかるからです。クラスのみんなを待たせるはめにならなければ、そのこと自体はたいしたことではありません。幸い、私はクラスメートとは仲良くやっていました。そうでなければ、とても気まずかったと思います。でも、クラスメートのほとんどが友達だったので、みんなして面白がっていました。先生と何度かやり取りした後、もうどうしようもないと思ったので、場所を変えて点字ディスプレイに文章を送りました。私は何だかイライラしてきて、また先生にくってかかり、言い争いは激しくなっていきました。結果的には、最初に読んだ時と同じスピードで、私が点字ディスプレイを使って文章を読み上げたので、先生は恥をかかされたような気持ちになったに違いありません。

 コンピュータの音声合成機能に話を戻します。点字を読むよりも音声を聞く方が速く、しかも両手でキーボードを使えるので作業がはかどります。マイナス面は、点字できちんと読まないために、詳細まで覚えられず、スペルも学べないという点です。コンピュータの音声合成か、点字ディスプレイかの選択は、ちょっとした葛藤です。これはもちろん、すべての生徒、先生にあてはまるわけではありません。

 通常の点字では、私はまだ練習が足りなくて、それほど速く読み書きができません。手っ取り早い解決策は「縮約」です。縮約では略語が使われます。例えば、独特な記号を使って文字を略します。記号や小文字、それに句点等もあります。単語はスペルアウトせず、略字をつなげて文が書かれているので速く読むことができ、通常の点字ほどスペースも必要ありません。それでもやはり、私は分厚い点字本を持ち歩くより、スマートフォンでオーディオブックを聴くほうが好きです。技術が発展したおかげで、日々の生活から点字が姿を消しつつありますが、これは好ましくないことでしょうか。点字には多くの利点があるので、完全になくなることはないと思います。数学や外国語、桁の大きい数字の勉強の導入時や修正時などは、点字ディスプレイが必要です。たくさんの人がこれからも点字を使用すると思いますが、限られた状況でのみ使用されることになるでしょう。私自身はそれでいいと思いますが、点字がなくなってしまったら残念です。限定した使い方をすれば、効率という点で現在も将来においても素晴らしいツールです。

 私は点字の縮字だけでなく点字楽譜も使用します。同じ記号でも、文章の中で使われるのと、楽譜で使われるのとでは意味が違う場合があることを知っておく必要があります。ただ、点字楽譜を学び終えた時、結局は片手で点字楽譜を読みながら、もう片方の手で楽器を演奏しなくてはならないので、点字楽譜はあまり使わないことに気づきました。音を聴いて演奏するほうが、もっと速くて楽しいからです。

 視覚障害者施設の一般公開やイベントでは、視覚障害者と普段ふれ合うことがない人達は、点字を知って驚くことが多いようです。視覚障害者と晴眼者が交流する機会であり、視覚障害者に関する意識向上につながるいい機会だと思います。

 私のように重度の先天性視覚障害を持つ子供は、早くから点字を学びます。他の子供がまだアルファベットや初級の単語を学んでいた頃、私はほぼ文章を正しく読めるようになっていました。点字の読み方を学ぶのは墨字よりも時間がかかるので、早くから点字を学んでおくと、学校の最初の授業から気後れすることなく学習に集中することができます。

 最後に、視覚障害者と晴眼者の日々の生活はそれほど変わらないということをお伝えします。視覚障害者は常に状況に適応し、解決策を見出しています。でも、これは誰にとっても同じではないでしょうか。