オンキヨー世界点字作文コンクール ONKYO WORLD BRALLE ESSAY CONTEST

ヨーロッパ地域 最優秀オーツキ賞 「点字とロックダウン」
スペイン  マリア・ヘスス・カニャマレス・ムニョス(57歳・女性)

 世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルス感染拡大の影響で、私たちは長いこと、家に閉じ込められた状態が続いています。買い物に行くことも、人と触れ合うパーティーやイベントに出かけることもできません。ほんの数カ月前までは、テレビを見たり、家族や親戚に電話でご機嫌伺いをしたり、子どもたちと遊んだりする時間もなかったというのに・・・今はむしろ時間をもてあましているのです。

 だからと言って、人と遠隔で連絡を取り合う手段には、よそよそしさや味気なさを感じてしまいます。パソコンが発する合成音声にもイライラします。マスコミやテレビから伝えられるのは、必要以上に大量の情報と死者数や感染率などのショッキングな数字ばかり。「ワッツアップ」アプリに届く動画や写真付きのメッセージも、テキストデータがなければ私には見ることができませんし、おまけに悪趣味なジョークが飛び交っていることが多くて耐えられません。でもそうなると、一体どうやって、この孤独を強いられる毎日を過ごしていけばいいのでしょう。気が滅入る一方です。

 その時です。不意に、ルイ・ブライユという名の驚くべき天才が、私に一筋の光をもたらしました。彼こそ、自身の名を冠した6点式の読み書きシステム、すなわち、過去200年にわたって、数多くの視覚障害者を非識字から救ってきた点字システムの考案者です。

 「君が『毎月1冊』と決めて買いためていた本は、どこにある?新たなテクノロジーの存在を知った途端に、読むのをやめてしまった本だ。それから、君が子どもの頃や10代の頃の、一番楽しかった頃の思い出が詰まったファイルは?」

 それがあったわ!ルイの助言のおかげで、数週間は没頭できそうなことが見つかりました。私はすぐに、テレビもパソコンも消して屋根裏部屋に上がり、ものの数分で、本やファイルや思い出が詰まった箱を、自分の部屋に下ろしてきました。CDをセットして、リラックスできる音楽を流します。

 あっ、これは村の先生だったジュリアからの手紙。先生はアルファベット表を片手に独学で点字を学び、私が通っていた学校にこの手紙を送ってくれたのです。でも、縦にしたり横にしたり、逆さまにしたりして読んで……いろいろ試してみたものの解読できませんでした。点字盤と点筆を使って書かれた手紙でした。あれこれ試した結果、ジュリアは、晴眼者がペンで書くのと同じように、左から右に向かって書いていたことが分かりました。ですから、私はそれを右から左へ、反対方向に読まなければなりませんでした。かなり骨の折れる作業でしたが、最終的に彼女が書いてくれた内容が理解できたので、めでたしめでたしです。

 続いて別の箱には、やりかけの数学の課題を発見。担任のトーマス先生が出した方程式や計算の問題で、私はいつも間違えてばかりでした。今ならこの問題を、コンピュータでやってみたらどうだろうと思ったりもしますが、そもそもエクセルの行やらセルやら列やらを使いこなせない私に、そんなことができるはずがありません。

 その後も、私は指先を休めることなく箱の中身を吟味していきます。そして、あるものを見つけた瞬間、思わず部屋中に響くほどの笑い声を上げてしまいました。ペペの宿題!私がクエンカにあるONCE(スペイン視覚障害者協会)の支部で、点字モニターとして働こうと思い立った時に、彼にやってもらったものです。点字に関連する言葉を5つ挙げるという問題で、彼は答えを書き終えると、その紙を私に手渡しました。そこに書かれていたのは、点字盤、点字用紙、点字タイプライター、点筆、そして・・・。

 「ひとつ足りないようだけど」と、私は笑みを浮かべながら言いました。

 彼は自分が書いたものを2、3度読み返し、そんなはずはないと言い張りましたが、私が反論すると、よく見てみろと言わんばかりに、その紙をもう一度私に押しつけてきました。

 「あ、最後のひとつがあったわ。『指サック』だって」

 その時のペペのきまり悪そうな様子とみんなの笑い声とが相まって、ますます場が盛り上がりました。図らずも彼が、最高の笑い話をクラスに提供してくれた記念として、私はその愉快な思い出の紙をとっておいたのでした。

 まだまだ私の読む手は止まりません。音楽の心地良さも手伝って、気持ちがどんどん和らいでいきます。そして気がつきました。もし点字を読む代わりにボイス・シンセサイザーで音声を聞く方法をとっていたら、同時に両方を聞くことはできなかっただろう、と。なぜなら、どちらの音も同じスピーカーから出てくるから。点字とテクノロジーは対立するものではありません。両者は両立し、互いを補い合うことで、視覚障害者の学習や自立の助けとなるものです。しかし、ちょうど今お話ししている場面のように、どちらか一方を選択しなければならない時もあるのです。

 これは何だろう。あぁ、聖なるロザリオの玄義と連祷のノート!そう呼んでいたのは、母に読み上げてもらって、私が書き取った写本のことです。これから毎日バルコニーに出て、コロナウイルスから私たちを救うために、全力で治療や看護にあたってくれている医療従事者の人たちに向けて力の限り拍手を送ろう。それから、この中の一節を選んで祈りを捧げることにしよう。私はノートをなでながら、そう心に決めました。

 腕時計のカバーを上げて、点字式の文字盤に触れると、時刻は8時5分前を指しています。そこで私は一旦すべてを中断し、長い時間、力を込めて拍手をしました。そして自分の部屋に戻り、ロザリオの数珠とノートを手にとると、ルイが父なる神に執り成してくれることを願いながら、心を込めて祈りました。コロナウイルスに感染して苦しんでいる人たちのため、回復を祈りつつも不安に襲われている患者の家族のため、そして、感染のリスクを冒しながらも休みなく治療にあたってくれている医療従事者のために。

 祈りを終えると、軽く夕飯をつまんでから、点字の本―これまでに何度となく読み返し、この先もずっと読み続けていく本―を持ってベッドに入りました。私の心は、今まで感じたことのないような安心感と穏やかさで満ちています。そして、私にとって点字がどういう存在なのかが、今はっきりとわかりました。点字は、最も必要としている時に必ずそこにあるもの。そのおかげで私は、常に友人や先生、家族、本の中の登場人物たちに包み込まれているような感覚を得られるのです。

 そうして私は、うとうとと眠りに落ちていきます。どうか良い夢が見られますように。