オンキヨー世界点字作文コンクール ONKYO WORLD BRALLE ESSAY CONTEST

アジア・太平洋地域 ジュニア・グループ 佳作 「点字が視覚障害者にとって今も重要であるならば、その普及のためにどのような措置を講じるべきか」
タイ  ウェルート・バルボン(17歳・男性)

 1824年、ルイ・ブライユによって最初のフランス語点字コードが考案されて以来、点字は世界中の無数の視覚障害者の個人的生活、仕事、学業の質を向上してきた。新たな技術の導入と共に、視覚障害者向けの教育手法が変化し、点字の具体的な役割もいくらか変化してきたが、点字は現在も今後も、世界中の視覚障害者にとって、重要なものであり続けるだろう。このエッセイで説明するように、点字には多くの利点があり、視覚障害者教育に携わる全ての関係者は、点字の教育と活用に最大限の努力を払うべきだと考える。

 点字習得による恩恵は無数にあるが、それらは主に二つに分類できる。まず日常生活で点字を学び活用するプロセスにおいて、無形のスキルが身に着くこと。一見わかりにくいことであるが、点字を学び活用するプロセスは、人の認知面、社会面、心理面の発達において多くの効果がある。点字学習の最初の段階は、それ自体必要不可欠だ。どの教育者も、書く、読む、聞く、話すという4つの基本的コミュニケーションスキルが、作業の完遂のために必要であるばかりではなく、間接的に学習者の認知的・社会的スキルを高めることを知っている。つまり視覚障害者の生徒が、幼少期に点字教育を受けなかった場合、読む、書くという4つのうち、少なくとも2つのコミュニケーションスキルを学ぶ機会を逸することになる。これは多大な損失であり、いかなる視覚障害者の生徒もこのような機会を逸するべきではない。少し重要度は落ちるが、考慮に値するのが、読み書き学習の社会的側面である。ある種の点字コードを読み書きする能力を身に着けることによって、自尊心を養い、職場や学校で自信を高めることができる。

 点字の第二の恩恵は、文字通り「読む」「書く」能力を身に着ける仕組みにある。音声を文字変換するソフトは現在広く利用されているが、依然すべての状況で使えるわけではない。例えば、音声認識ソフトを使っても、複雑な語彙や書式による長い文書を完璧には作成できない。さらに、混雑した職場や教室など多くの公共空間において、音声の文字変換ソフトは適さない。テキストを読み上げる音声変換が主流の世界ではあるが、読解力を身に着けるには依然として点字が効果的だ。生徒は音声だけを聞くより、点字を読むことで、より多くの語彙を習得できる。さらに、一部の人は聞くより読むことによって、より良く情報を学び消化する。例を挙げればきりがないが、変化の激しい世界において、点字は幅広く応用できることがお分かりいただけると思う。

 この意味において、私たちはできる限り、点字教育を奨励しなければならない。この取り組み自体は常に、特別支援教育の専門家たちが真摯に進めてきたものではあるが、政府の担当部署からの政策および財政支援が必要となる。タイの場合、デジタル経済社会省が点字ディスプレイ等の点字機器を、金銭的余裕のない視覚障害者の生徒に対し無償提供している。点字ディスプレイ技術の進歩に伴い,機器の価格は大幅に下がり、普及の追い風となっている。例えばアメリカンプリンティングハウス社が販売しているマス数20の視覚障害者用Orbit Readerは、449ドルで入手できるが、以前はマス数14や16のディスプレイでも1300ドル以上していた。タイでは科学技術省の管轄下にあるシンクロトロン研究所も、マス数20の点字ディスプレイの廉価版を開発中だ。これらは関係者にとって良い兆しであり、省庁はこの機会に、点字ディスプレイの普及を、台数、スピード共に、改善してほしい。そうすれば視覚障害者の生徒の生活の質が、大幅に向上するだろう。

 上記のほかにも、視覚障害の青少年が、点字や生活に必要なスキルを身に着ける上で有効なプログラムとして、早期介入プログラムがある。私自身が経験したものだが、全国的な盲学校制度に比べ、より個人のニーズに特化した、集中的な訓練をすることができる。このプログラムの問題点は、未だ多くが民間で行われ、費用が割高と言う点である。そこで政府が介入し、同様のプログラムをもっと導入すべきだと思う。そうすれば視覚障害児も、より個人に特化した、効果的な訓練、総合的な初歩的点字教育を受けやすくなるだろう。早期教育のもう一つの利点は、どの言語スキルにも言えることであるが、早く始めるほど、より深く定着すると言う点である。また早期にスタートすることで、教師やカウンセラーも、生徒の親に対して、視覚障害や点字の重要性について十分啓蒙することができる。点字から得られる恩恵、コミュニケーション手段の一つとして、点字を利用するのは恥ずべきことではない、というメッセージも伝えることができる。

 このエッセイに記したような、点字の幅広い恩恵に鑑み、文部省とデジタル経済社会省は、今後、点字教育の基礎を強化し、視覚障害者の人生におけるより良い機会提供を保障すべく、重要な措置を講じるべきと考える。