オンキヨー世界点字作文コンクール ONKYO WORLD BRALLE ESSAY CONTEST

アジア・太平洋地域 最優秀オーツキ賞 「本当の夢」
ベトナム  チャン・ビン・ミン(34歳・男性)

「お父さん、家に帰りたくないよ。ミン先生の家に残って勉強したい」

 これはレッスンが終わって父親が迎えに来た際、5歳の視覚障害児が発した言葉です。可愛らしいですよね。私にとって、自分の夢を叶えることは、私の誇りであり、熱意であり、視覚障害児への愛情、自分の信念なのです。

 私の名前はチャン・ビン・ミンです。バクニン省の農村部で生まれ音楽に囲まれて育ちました。祖母や母の歌う子守唄は、子供だった私の心に音楽への愛情を芽生えさせました。子供の頃から目が見えませんでしたが、幸運なことにハノイのグエン・ディン・チュウ盲学校の普通学級に通うことができました。学校では通常の科目のほかに音楽も学び、多くの著名な芸術家の指導のもと、音楽への情熱を育みました。2005年、ベトナム国立音楽アカデミーの入学試験に合格し、竹笛を専攻しました。ベトナムの代表的な音楽学校で学ぶことは、私と家族にとってこの上ない幸せでしたが、視覚障害者の学生向けの教材がなかったため、勉学には多くの困難が伴いました。先生や友人たちにレッスン内容を読んでもらうよう頼み、他の生徒に比べてかなり長く自習する必要がありました。自分の時間はほとんど勉学に充てました。そしてようやく努力が報われ、2014年、ベトナム国立音楽アカデミーを良い成績で卒業しました。その後、国内の障害者向け音楽コンクールに数多く出場し、多くの金メダル・銀メダルを獲得しました。音楽を通して家族や友人、社会から尊敬と愛情を受けました。

 視覚障害者が、音楽で生計を立てるのは非常に困難で、組織や個人の支援が必要です。私の場合もそうでした。卒業後、私と同じように音楽の知識とマッサージの技術を持つ友人たちと、マッサージサービスセンターをオープンしました。音楽への情熱を育む収入を得るためです。センターは「ドン・ド・アスピレイションズ」と名付けました。メンバーは皆、音楽への情熱と知識があり、竹笛や一弦琴、四重奏、民謡などの特技がありました。私たちは度々、週末になると、音楽の知識を高めるため、音楽交流や練習を行いました。保存と普及が必要なベトナムの民謡も練習しました。さらに視覚障害児に音楽を教え、音楽大学への入試準備をしている生徒の声楽スキルを改善しました。私たちのグループは、ベトナム視覚障害者協会の大会や主要な会議で演奏しました。この協会への貢献を通して、協会の執行部は私たちの努力を評価し、音楽と共に生きると言う、私たちの夢を実現してくれたのです。それは「サンシャインバンド」の誕生でした。このバンドは、視覚障害者に対する社会の意識を高め、視覚障害者が音楽を職業にすることを助けるために誕生しました。私たちのバンドの重要な目的のひとつは、卒業後に私たちの生徒自身が、障害者のための音楽クラスを開設できるようにすることです。

 当初は多くの困難があったものの、ベトナム視覚障害者協会等の支援を受け、バンドの活動は徐々に安定しました。特に視覚障害者の音楽家グエン・タン・ビン氏がギターを寄贈して下さり、直接レッスンを行い、さらに多くの音楽家を招聘して私たちの知識を高めてくれました。ビン氏はまた、バンドのステージ演出やアレンジを指導してくれました。バンドは毎晩演奏に出かけました。私たちのバンドで唯一目が見えるのは運転手でした。私たちバンドの唯一の移動手段は古い三輪オートで、まるで天気が変わると時折具合が悪くなる、高齢者のようでした。すべての演奏家と楽器をオート三輪に乗せ、晴れた日には照り付ける太陽のもとで皆汗だくになり、突然雨が降り出すと、走ることも傘をさすこともできず、演奏家も楽器もずぶ濡れになりました。収入が不安定で、バンドは大きな試練に直面しました。ベトナム視覚障害者協会の幹部たちの指導と支援を受け、音楽への情熱を持ちつつ、サンシャインバンドは困難を乗り越えて、観客たちから称賛されるようになりました。さらに学校や住宅地、賑やかな観光地などでも演奏し、地域社会に喜びと感動を与えてきました。私たちの演奏を愛する観客がいる場所は、どこでも私たちのステージです。バンド活動から得られる収入はそれほど多くないものの、生活費や学費、音楽への情熱を追い続けるための費用を賄う資金を、より多く得られるようになりました。

 2018年サンシャインバンドは、タイで開催された視覚障害者音楽フェスティバルに、ベトナム代表として参加しました。伝統楽器のコンサートやアカペラでのベトナム民謡、ベトナムの伝統楽器による英語の歌等、ベトナムの特殊な演奏スタイルは好評を博しました。

 現在、私はベトナム視覚障害者協会の点字印刷所で働いています。私の仕事は、他の視覚障害者に情報と知識を伝える手助けをすることです。これは私にとって、より多くの視覚障害者を助けるチャンスになります。この日常の仕事と並行して、今も私はバンドの活動に積極的に参加しています。同時に週末には、音楽への情熱と才能に溢れる視覚障害児を教えています。これもまた音楽との時間を過ごす私のやり方です。常に私の知識のすべてを分かち合い、子供たちの意欲を刺激し、子供たちが将来自信を持てるように手助けしています。私の生徒の多くが成長し、ベトナム国立音楽アカデミーの優秀な学生として学んでいます。彼らの一部は音楽グループを作っています。音楽は私に、自立への道を開き、家族や社会と対等でいられる、有意義な人間へと導いてくれました。

 これまで私は、自分自身の「本当の夢」を抱いて生き、働いてきました。それはベトナム独自の民謡を教え、保存し、普及する夢。他の障害者へ喜びを与えるという夢です。音楽は神のようなものです。常に私の傍らにあって、私を支え、夢の実現を助けてくれます。私の愛する生徒たち、およびベトナム、世界の視覚障害者の皆さんに向けて、ある言葉を送ります。それは視覚障碍者の歌手グエン・タン・ビン氏が、2011年にオーディション番組Vietnam Got Talentで歌った曲「I believe I can fly」の一節です。「私は信じる。私にはできる、そしてあなたにもできる」と。