オンキヨー世界点字作文コンクール ONKYO WORLD BRALLE ESSAY CONTEST


優秀賞 国内部門 学生の部
「手の記憶」
大阪府 藤本 彩希(17歳・女性)
皆さん、幼い時、大人や友達と手をつないでいましたか。最近、いつ他人の手に触れましたか。
私が見えていた時期と言うのは小学校入学前です。だから、どのくらいの頻度で他人の手に触れていたかということははっきりと覚えていないのですが、見えなくなって、見えている時より手に触れる機会が増えたと思います。これまでの私の手の記憶を思い出していると、手にはその人の個性、過ごして来た日々の記録や今の感情が表れていることを強く感じました。これからこのような私の手の記憶をお話したいと思います。
私は、ある冬の夜、赤切れした自分の手にクリームを塗っていた時、ふと幼い時につないだ母のガサガサした手を思い出しました。当時は何とも思わなかったけれど、今、考えれば家事の疲れの影響が出ていたせいだと思います。
一方、父は普段から私の祖母に「血流が悪いから手が冷たくなるねん」と言われています。父は昨年、入院しました。入院中の父の手に触れると、いつもよりも固くて冷たいと感じました。母と父の手から、私は、手は日々をどう過ごすかというさりげない選択や、暮らしている環境の違いの積み重ねがあったことを写しだしているから、全く異なった感触になるのだと感じました。
高校2年生になる前の春休みの事です。私が利用しているデイサービスからボランティアで老人ホームに行く機会がありました。老人ホームの会議室のような所でクイズや歌や手遊びの出し物をしました。発表が終わってから、入居されている方々の傍に行って挨拶をしました。挨拶をした方の中でも、あるお祖母ちゃんが印象に残っています。握手をした手は、温かくて柔らかな手でした。握手をしながら「頑張ってね」と声をかけられると、私は「自分の目標達成に向けてこれからもこつこつと教科書の勉強や仲間と色々な活動ができる学校生活を頑張っていこう」と思うことができました。
人の手の温かさを感じると、頑張ろうと思えたり、安心できたりします。手相占いというものもありますが、これは人それぞれ違うものだからできることだと思います。手には手相だけではなく、大きさ・指の長さ・温かさ・硬さなどに違いがあります。これは人それぞれの環境で、自由に、限られた時間をどうすごすかという選択を繰り返した記録です。そして、努力をしたり楽しんだりして、生活を送ってきたことの記録でもあります。それらが手の個性になって表れているのだと思います。気持ちの伝え方には会話や筆談、手話やジェスチャーなど様々あります。握手は、会話や手話のように、考えていることをそのまま言葉で伝える方法ではありません。しかし、先ほど話した老人ホームに入居されているお祖母ちゃんとの握手には、言葉で伝えたものを強める効果、意欲を湧かせるパワーがあるのではないかと思いました。
手の記憶を振り返ると、自分のため、家族のため、他人のために手を使っている情景を思い浮かべることができます。私は手について詳しく考えて、これまでに沢山の人の手があって生活してきたのだと思いました。私が生まれた瞬間から今までで、一瞬でも関わったすべての人を数えることはできません。だから、これまでに関わってきたすべての人に恩返しをすることはできないでしょう。しかし、たとえこれまでに関わってきたすべての方々に感謝を伝えられなくても、私にできることは何だろうかと考えました。それは、自分でできることを増やすことと自分の手を使って働くことです。私は人に喜んでもらえるようなマッサージができるようになって、自分の手に自信を持って働きたいと考えています。そして、沢山の人と関わっていきたいです。これまで支えてもらったこと・助けてもらったこと・教えてもらったことで蓄えたエネルギーを使って、沢山の人と関わって仕事をすることが、これまでに関わった人への恩返しになるだろうと思います。本当にそうなら良いなと思います。
私の手を使って働き、私の手から何かを感じてもらいたい。そのために、一つずつこつこつと勉強を頑張っていこうと思います。